信州そば

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凍りそば
 そばをゆでてから凍らせ、乾燥させたもの。いつごろから作られたかわからないが、明治時代には各地にあり、中でも柏原(信濃町)産のものが最も有名だった。凍りそばの伝統は一時絶えたが、戦後に信濃町で復活し、今や名物として定着している。手打ちそばをゆでて、2、3本をくるっとまいて小さな輪をこしらえ、これを厳冬の戸外で凍らせ、乾燥させる。品質を落とすことなく、長期保存できるのがいい。現在は作る量に限度があり、地元でしか求めることができない。
 食べるのは、吸い物などが合う。凍りそばは上品で、キャシャなので、丁寧に扱いたい。汁椀に1つ入れ、熱いすまし汁をゆっくり注ぐ。やわらかな口ざわりに、ほのかなそばの風味が楽しめる。

富倉そば
 飯山市富倉に古くから伝わるそば。ヤマゴボウ(オヤマボクチ)の葉をつなぎとし、ほかに小麦粉などは使わない。
 ヤマゴボウをつなぎとする作り方は、各地にあった。今は長野県内では5ヶ所ほどが知られている。ヤマゴボウの若葉を乾燥させて手でもむと、細かな繊維が残る。これをひとつまみ入れてそばをこねると、粘りっこいそばを打つことができる。
 富倉は雪深い山間の集落。以前は交通の便が悪く、「幻のそば」といわれた。現在は国道が通じてそばを提供する店もいくつかある。
  ヒバのおこうがけ
 鬼無里村名物に「ヒバのおこうがけ」がある。ヒバ(干葉)は大根の葉(現在は野沢菜も)を乾燥させたもの。これを丁寧にさらして汁に入れるのである。
 そばはゆでてザルにとっておく。熱い鍋で湯じて食べるのは、「おにかけ」「とうじそば」と同じ。「おこう」は、汁の具の意味で、湯じたあと、ヒバ入りの「おこう」を少しお椀にのせるので、この名がある。うどん類でもやる。
 ヒバは冬の保存食として、昔の農家は大量に作った。しかし、食生活の変化とともに、今はほとんど忘れられつつある。
とうじそば
 そばをゆでてひとつまみのボッチ状にしておき、味噌汁などであたためて食べるやり方。「とうじ」とは、「湯じる」という字をあてはめるとわかりやすい。うどんやソーメンでもやり、「おとうじ」「おにかけ」などと呼ぶ。
 長野県内では古くからこうした食べ方が各地であった。専用の「とうじかご」があり、今でも家庭で楽しむ人がいる。ゆでてあるそばを、熱い汁の中であたためるだけなので、次から次ぎへと供することができる。婚礼など人が大勢集まる席で重宝した。
 今も、名物にしているのは奈川村や開田村で、「投汁そば」とも書く。大きな鍋を囲んで(昔なら囲炉裏の火にかけた鍋で)、とうじながら何杯もおかわりをして食べるのは、格別の味わいである。
さらしなそば
 さらしな粉で打ったそばのことである。さらしな粉とは甘皮や殻の微粉が全く含まれていない、真っ白なそば粉で、製粉にたいへんな手間がかかり、少量しかとれないので値段も高い。いわば、純度の高いでんぷん質なので、さわるとカタクリ粉のような手触りがあり、粘りがない。したがってそばを打つのも高度な技術を要する。さらしな粉のような粉の生粉打ちとなると至難の技で、これが可能な打ち手はほとんどいない。さて味の方だが、舌触りの爽やかさは格別で、胃にもたれない。とりわけ真っ白な見た目の美しさはなんともいえない。そばらしい風味には欠けるが、御前そばの異名をもつだけあってその繊細さと高貴さはそう味わえるものではない。
スンキそば
 木曽の名物、スンキを入れたそば。スンキは冬の漬物で、塩分を全く使わない、珍しいものである。
 スンキの材料は木曽菜などのカブ菜。前年のものを乾燥保存しておき、タネとする。タネを湯で戻して少量に敷き、新しい菜を熱湯に通してのせる。こうして交互に重ね、さらに菜だけをのせていって漬け込む。
 乳酸発酵による漬物だが、熱湯を通し、塩を使わないので、じきに食べられるようになる。保存するのがむずかしく、本来は冬期間だけのものだった。味は酸味のある独特の風味で、慣れると大変おいしい。スンキだけなら、軽く醤油をかけたりして食べる。 スンキそばは、熱いかけそばの上にきざんだスンキをのせたもの。木曽のそばの力強い味に、スンキ特有の香りと歯ざわりが加わって、絶妙な味わいがかもしだされる。
  行者そば
 伊那市内ノ萱にある伝説では、一昔、役小角(えんのおづぬ)という行者が、駒ヶ岳へ修行に訪れた。修行を終えて帰る時、ソバの種をおいていった、これがよく地方のそばの発祥である。
 役小角は修験者(行者)はよくソバ粉を持参して修行した。ソバは五穀(米、麦など)以外とされ、「五穀断ち」にかない、また「木食」といって一切火を通さない食物ばかりを食べる修行にもなる。そば粉は水でといただけでも食べられるからである。
 こうした伝承をうけて、内ノ萱では毎年10月中旬行者そば祭りが開かれている。この地方特有の、大根おろし汁に焼味噌を溶かしこんだ「からつゆ」で食べられるのもうれしい。
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